禅寺を借景とする住まい

 恵まれた緑の中に広大な境内をもつ禅林東福寺。その周辺には、どっしりと落ち着いた、風格ある住まいが連なることでも知られています。それだけに、環境にふさわしい住まいづくりが求められました。ここでは、あくまでも基本にのっとり、当たり前のことを当たり前にデザインすることをコンセプトにしました。生活する中で無理を感じない設計、気にならないデザイン。設計者の主張が強すぎる住まいは、決してよい住まいとはいえません。
 光、風、空間、緑、眺めなど周辺の自然条件をあるがままに活用。家族みんなのだんらんやコミュニケーション、接客も無理なくスムーズに行えるゆとりある住まい。現代では、自然流を空間に再現することこそ、最高の贅沢といえるのかもしれません。
 設計面では、東福寺から続く山すその高低差をたくみに利用。地下1階地上2階ながら、どの部屋も庭に面し1階に立つ感覚。寺の緑を借景に、随所に余裕を感じさせる設計としました。また何げなく見える屋根も、まったくオリジナルデザイン。環境に調和しながら、さりげない存在感を演出しています。
 自分の視線から見る家も大切ですが、外から見た家の印象もまた大切。それは家族それぞれの、自立した大人の暮らしぶりを反映するものにほかなりません。
   澤邸
京都市
1989年完成
RC造