視点  広く社会を見つめる眼

 生活、活動の場を創造する。それは、住宅、会社、旅館、工場、駅、病院、学校等、人が生活しているあらゆる建物を、利用する人々が心地よく使えるように設計をしなければなりません。
 一口に心地よくと言っても、機能や安全、デザイン等ハードな技術はもとより、愛着や思い入れ、歴史や時代の流れ、各人の生活態度や職業倫理、国民感情、社会制度や国際情勢、育児や教育、高齢化社会、人口問題や地球環境問題等、できるだけ広範な事象を見聞する必要があります。そして、いつも、何かを感じ何かを思い何かを考えている事が大事です。そうした感受性と見識を持つことにより、人それぞれの多種多様な建築への思いを受け入れて包括した、未来を標榜した建築設計が可能になります。
 新たな建物を利用した、何十年、何百年に向っての活動に、心地よさを伴う満足を得られるように腐心しなければなりません。
 建築は物づくりの集大成です。多くの人が精魂込めて時代の記録を刻むのです。形、色、材質、機能、アイデア、技、思考、趣―文化、文明、技術、芸術、希望の結果なのです。
 そうした多くのエネルギーを注ぎ込みながら、一つ事を間違えると、はかなく消滅します。地球環境や自然現象の把握不足からくる自然災害、人類のエゴで破壊のみの戦争、心得違いの(経済的、思考的、施工的)手抜き建築、思考不足で後悔が後を絶たない建築、金権で腐敗した規制やナンセンスな慣習で我慢を強いられたり、建物を利用する将来展望を誤算する、など、大小さまざまな建物の危機を排除しなければなりません。
 多くの事象を見聞して真実を模索しながら、建築(生活)環境を整備啓蒙し、人類の社会基盤の安定に努力し、地球環境の均衡と循環を破壊しないように、つねに勉強していかねばなりません。職能として研鑚する事はもとより、微々たる努力でも、一人の生活者としてつねに心掛ける事が、平和への源ではないでしょうか。

[戻る]