理念  建築と建築事務所との関わり

 私たち建築家のようなノウハウ業が担う仕事は、より専門的で、取り返しのつかないことが多く、その場では真偽のほども一般には判別できません。後日、時には歴史の結果を見なければ判明しません。それゆえノウハウ業は高い倫理感を持たねばならず、独立した専業職でなければ歪んだ結果が起こりやすいものです。
 人間が自然界を自分たちに都合の良いように造作してきたのが、建築やまちづくりだと考えます。建築家はその安全性や機能、秩序のために業務を託され、昨今では環境保全や良い景観づくり、潤いのあるまちづくりが求められます。自然の雄大さ、やさしさ、美しさ、動植物との共存、自然のサイクルの尊重、永続性、そして人々の気持ちや生活を重んじた豊かな建築及びまちづくりが不可欠です。機能、構造、法規、施工、防災、設備、経済といったハード的能力と、自然、環境、景観や人間の気分、健康、生きざま等に対する見識であるデザイン、芸術、哲学、教育、医学といったソフトや情緒的能力を持って、建築の企画設計にあたらねばなりません。
 高い低い、大きい小さい等の形状や、機能的便利さ、経済的豊かさ等はよく理解されてきていますが、人本来の思いである文化や芸術の香り、心の安らぎや豊かさが感じられ、自然とのふれ合いのある生活環境を創ることに、もっと時間をかけるべきではないかと考えながら仕事をしています。
 私たちは、人々や自然にとって良いと思われる建築に対する考え方を、研究し訴え続けることはできますが、機会を与えられなければ建築をすることはできません。建築家は、建築主の要望を建築的にまとめて、生産者である建築業者に主旨を伝達し、その製作を見届ける役目をしています。
 建築主の盛りだくさんの夢や希望、想いを、私のノウハウをもって具体的に創作することが基本です。そして建築業者に、いかに上手に作ってもらうかに気を配っています。結果は、十年後、五十年後、百年後です。そのために、まだまだ勉強しなければと頑張っています。
 「信用ある技術、知識を法規にのっとり、正しい監理のもとに適正な報酬で正常な条件のもと、全能力をあげて提供すること」、これを私は自分に誓っています。

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