建築事務所の成り立ち

 建築事務所と名のつく事業体は京都府下だけで2千数百軒あります。うち本来の設計監理がしっかりできる事務所は100軒に満たないかもしれません。建築主からのみ委託を受け、施工者の利害関係を直接受けず、もっぱら建築自体を中心に据えて業務を行う事務所は数軒くらいではないでしょうか。
 日本の建築事務所の歴史は浅く、文明開化の明治時代に西洋建築の伝来と共に始まりました。それまでは封建時代の統制で建築設計に自由がなく、大工の棟梁が指揮する建築施工技術の伝承で間に合っていました。
 建築の自由化と共に設計が必要になりますが、工事をするための設計、もしくは西洋の模倣をするための設計が大半だったと思います。建築事務所の受注の仕方の違いで、主に造りやすさや施工者の経済性を考えた「工事をするための設計」と、使い勝手や機能、快適空間を考えた「建物を使うための設計」では、建物を利用する人にとって大きな違いができます。
 設計監理の業務は、建築主の思いを専門的に具現化し、技術的に助言し成就させる事です。建築主がそれを理解して建築家に依頼しなければ、事務所の存在基盤は維持されません。建築士制度自体、戦後GHQの指示で出来、原案には「建築士事務所は専業でなければならない」という項目があったように聞いています。
 一般の建築主にとって、建築の機会はそうあるものでなく、歴史的習慣から、建築=大工(工務店)となりがちですが、建築文化、技術はここ数十年の間に飛躍的に進み、設計すなわち、プラン、材質、機能、デザインの多様性は、専業の建築士でも日々勉強していなければなりません。昔のように建築主の指示で工務店が造るという形では、満足な建築物を手にする事は難しく思います。建築主の思いを診断し考察して創作する、そして造る人(工務店)に正確に伝達する、そのような専門家を必要とします。
 施主と大工の関係は、信頼関係と技術腕前を基準に成り立っていましたが、貨幣経済や労働条件の整備、企業育成の請負制度のもとに、技能は時間とお金の関係に置き換えられ、「信頼関係」が「法制度関係」になりかねない感がします。元請けは現場監督を派遣し、技術指導や品質確定をなした上で、工費や工期等を調整し実行する義務があるはずですが、工費、工期しか念頭にない監督が建築をダメにする事もあります。昨今の数字で動いている社会では、建築主の思いの実現を施工者(工務店)に期待する事はたいへん難しいと思われます。だからこそ、建築本来を見つめられる建築事務所が重要と考えます。 


建築事務所とは

 満足度の高い生活を営める空間を、
創意工夫し、演出する為に、
建築の知識を駆使して、組織的に、効率よく、
社会に働きかける所。


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